全天候ポートフォリオを基盤とした運用戦略について
当社は、「Project 344β」と銘打ち、インフレ・デフレ・不景気・好景気の全ての天候に対する耐久性を持ち、規定RFR(後述)以上の収益を上げ続けることを目的としたポートフォリオの研究を行っております。
目標パフォーマンスとして、レバレッジ不使用(後述する、ダイナミック為替オーバーレイ部分を除く。)で、規定RFR+4%、標準偏差4%以下、最大ドローダウン6%以下を掲げています。規定RFR以上のリターンを生み出すことで、現実的なインフレ率以上の収益率を維持して資産価値の実質目減りを防ぎつつ、規定RFR超過部分のみを生活費や必要経費に充てることで、継続的な活動を行うことができます。したがって、富裕層のファミリーオフィスの運用やエンダウメントの運用に適した、永続を目的とした保守的なポートフォリオとなります。
規定RFRを超過したリターンは定期的に出金され、以下の計算式を超過した分は再投資されます。
まず、運用開始初年をt年、運用開始からの経過年数をn年、t年の規定RFRt(%。後述。但し、最新年については未確定なので暫定値を利用)とした上で、t+n年の生活費&事業活動費想定額t+nと規定RFRを基準とした四半期生活費&事業活動費消費額t+nを定義します。
(以下、下付き文字\(t\)や\(n\)などの1つ目を年とし、2つ目は四半期を表します。)
\(\sf 生活費&事業活動費想定額_{t+n}=\frac{3}{100}\times 初期投資額 \times \prod_{i=0}^{n}\left(1+\frac{規定RFR_{t+i}}{100}\right) \)
\(\sf 四半期生活費&事業活動費消費額_{t+n}=\frac{生活費&事業活動費想定額_{t+n}}{4} \)
四半期末に四半期生活費&事業活動費消費額
t+nが消費される前提とし、出金戦略としては、合計投下資本に対してのプラスリターンを全て出金し、四半期生活費&事業活動費消費額
t+nの充当だけではなく、最大で3年間の生活費&事業活動費をプールします。元本割れ時はマイナスが埋まるまで出金が停止されます。
\(\sf 最大生活費&事業活動費プール額_{t+n}=3\times 生活費&事業活動費想定額_{t+n} \)
また、t+n年第q四半期におけるプールされた生活費&事業活動費を生活費&事業活動費プール額t+n,qとします。
これらを元に、以下のようにt+n年第q四半期における再投資金額t+n,qが決定されます。結果として、最大生活費&事業活動費プール額を超える分が再投資されることになります。
\(\sf 再投資金額_{t+n,q}=max \left\{ 超過収益_{t+n,q} - プール加算上限_{t+n,q-1}, 0 \right\} \)
\(\sf 超過収益_{t+n,q}=含み益_{t+n,q} - 取引手数料等_{t+n,q} - 四半期生活費&事業活動費消費額_{t+n} \)
\(\sf プール加算上限_{t+n,q-1}=最大生活費&事業活動費プール額_{t+n,q-1} - 生活費&事業活動費プール額_{t+n,q-1} \)
\(\sf 取引手数料等_{t+n,q}=取引手数料想定額_{t+n,q} + スリッページ想定額_{t+n,q} + 為替手数料想定額_{t+n,1} \)
時系列データの推定について
当社は全ての天候における耐久性をより強固にするため、1980年以降の頻度高く含まれる全天候データに基づいてポートフォリオの最適化を行っています。ただし、多くの資産クラスは直近の時系列データしか持ち合わせていません。そこで当社では、不足している過去データについて、ファクター分解、他資産クラスとの相関や非線形関係、時系列モデリングや機械学習的手法(政治、マクロ経済、金融市場、産業データなど因果関係が推定される情報の利用)などの様々な方法を用いて、過去の時系列データを推定することでデータを補っています。これにより、全天候に対する耐久性はもちろん、テールリスクにも一定程度の耐久性のあるポートフォリオを検証することができるようになります。
この取り組みは、レイ・ダリオ氏が掲げる「オール・ウェザー戦略」が過度なインフレに対応できていない(参考:https://www.lazyportfolioetf.com/allocation/ray-dalio-all-weather/)という課題点にも対応しており、テールリスクや2022年~2023年の政策金利の連続引き上げといった1980年代に類似するインフレ市場環境でも負けにくい堅牢な戦略となっています。
ポートフォリオの最適化とマーケットタイミングについて
マーケットタイミングによる収益アルファの貢献は、市場が期待されているほど大きくないと言われており、裏切られることが多いものです。当社においてもマーケットタイミングの推定に基づいた売買を原則として行わず、 定期機械的なリバランスを重視し、長期的な資産クラス別のβを取りに行きます。ただし、モメンタムのような分かりやすいスタイルファクター、または、運用者によって成績のバラツキが非常に多い投資資産クラスではマーケットタイミングが報われることがあることも分かっていますので、ETF経由や機械的なルールに基づく場合など、一部に合理的な範囲で間接的に例外的なマーケットタイミングを取り込んでいます。たとえば、後述するダイナミック為替オーバーレイ戦略には、一部分に機械的なマーケットタイミング戦略を取り込んでいます。
ポートフォリオの最適化においては、伝統的な相関関係を用いた分散効果でリスクの下方偏差(downside deviation)を最小限に抑えながらも、一方で、テールリスクなどの特別な状況下において、例えば特定の天候やテールリスクが発生した際には、資産間の相関関係が強まることも考慮して最適化を行っています。 このため、あらゆる天候下でも一定程度均衡したパフォーマンスが期待でき、加えてテールリスクへの対応力も強化しています。
以上から、原則として、組み入れ資産はロングオンリーで構築する方針を採用しており、そこに自社開発のダイナミック為替オーバーレイ戦略を活用し、ポートフォリオに為替オーバーレイする戦略を採っています。伝統的資産クラスのロングオンリーのシャープレシオは一般的に0.7から0.8が最高値と言われており、外貨建てエクスポージャーは25%程度が良いと研究されています。しかし、当社では運用者によって成績のバラツキが少ないスタイルに限り、スタイルファクターを非流動ではなく手数料の低いETF経由で取り込んだり、成績のバラツキが激しい戦略については敢えてファンド等の非流動性資産クラスを検討したりすることで、定期的な出金戦略が組み込まれているにもかかわらず、伝統的資産クラスのロングオンリー戦略以上のシャープレシオの増大を見込んでいます。
最適化のイテレーションについて
当社では、組み入れ資産候補増加、過去時系列データの推定の改善を1年に1回以上は定期的に行う方針でありその都度、ポートフォリオの最適化も当然行われ、組み入れ資産比率は調整されますが、「実運用」と記載されたデータは、イテレーションの都度最適化されてきたポートフォリオのパフォーマンスを繋いでおり、すべてのヒストリカルデータについてまで最適組み入れ比率をバックデートで調整するといった当社に都合のよい運用パフォーマンス表示は行いません。また、イテレーションの都度、組み替えられる前のポートフォリオについてもフォワードで仮想運用データを取得し続けますので、イテレーション前のポートフォリオがどのようにその後パフォーマンスを上げていったか把握することができます。
レバレッジについて
目標パフォーマンスの達成には、ダイナミック為替オーバーレイ等の部分を除きレバレッジは不要ですが、参考にレバレッジサイズについてx2、x5、xオプティマルf/2の場合のデータについても公開します。
積極的にパフォーマンスの向上を狙いリスク選好する場合においてレバレッジは良策で、その場合の成績を確認することができます。
【レバレッジ調達コストについて】
レバレッジは証券担保で行われる前提ですのでプライムブローカーから100~250bp程度のクレジットスプレッドで資金提供されるのが一般的です。
従って、計算においては、日本の1年国債金利に150bpを加算した率を調達コストとします。
但し、日本の1年国債金利が0%未満の場合には0%として計算しますので、最低でも150bp以上の調達コストがかかることになります。
【レバレッジの反映について】
以下の式に基づいて、レバレッジが影響されます。
\( \displaystyle \sf 月次換算借入金利(\%) = \left[ 1 + \left\{ \max \left( \frac{日本1年国債金利(\%)}{100}, 0 \right)+\frac{1.5}{100} \right\} \right]^{\frac{1}{12}} - 1 \)
\( \displaystyle \sf レバレッジ後の総資産推移変動率= \left( 再投資込資産推移の変動率 - 月次換算借入金利 \right) \times レバレッジ倍率 + 再投資されなかった生活費&事業活動費の変動率 \)
【オプティマルf/2について】
ラルフ・ビンズが定義するオプティマルfを半分にしたオプティマルf/2を用います。
オプティマルf = 月次最大上昇率 / (月次最大上昇率 + |月次最大下落率|)
総資産額に対する取引サイズ = 投資期間における最新の総資産額 / (|期間中の月次最大損失額| * オプティマルf/2)
レバレッジ倍率 = 1 + 総資産額に対する取引サイズ / 初期投下資金
手数料とスリッページについて
実運用ポートフォリオの成績については、実際に売買した結果に基づいているため、サクソバンク証券やInteractive Brokers証券などの実証券会社で発生した売買手数料、スリッページについてAPI等で取得して計算されています。過去のイテレーション前ポートフォリオの成績については、ヒストリカル・フォワードのいずれにおいても以下の式に基づいて、手数料、スリッページが推定されています。推定値は非常に保守的に計算されており、実運用ポートフォリオの実値を超過することは非常に希であると考えております。
【手数料推定値】
\(\sf 手数料推定値 = 取引金額 \times 最大手数料率\)
\(\sf 最大手数料率 = Interactive \ Brokers証券で設定されている、該当取引資産の売買にかかる最大手数料率\)
【スリッページ推定値】
\(\sf スリッページ推定値 = max(スリッページ推定基準値, スリッページ推定補正値)\)
・スリッページ推定基準値
資産カテゴリごとのスリッページの違いや、実際の取引資産の出来高など流動性に着目した、スリッページに関する先行研究や統計データを用いて決定した資産ごとの基準値
・スリッページ推定補正値
スリッページ推定基準値を、市場全体のボラティリティなど市場環境によって補正した値
なお通常、こういったポートフォリオを第三者に委任する場合、設定(販売)手数料、運用信託手数料、成功報酬手数料などがパフォーマンスから更に控除されますが、本パフォーマンス公開サイトにおいては、控除されていない点にご注意ください(当然、自己運用した場合、掛からない費用であるため)。
税率について
金利収入、配当収入、キャピタルゲインのいずれにおいても、一律税金が発生しない前提でパフォーマンス表記をしていますが、実運用ポートフォリオに限り、内部向けに税率を抑えるための含み損失の損失確定・再投資プログラム(リバランス・出金時に損が出ているポジションを手仕舞いし同量再投資する、など)が稼働しており、その分により発生する売買手数料やスリッページが運用利回りを押し下げます。
また、実運用ポートフォリオにおいては、証券会社よりAPIで取得する実データは税金が控除されているため、これらを加算して成績データとして公開しています。そのため、実際に税率が発生せず、源泉徴収されなかったり、納税する必要がなかったりした場合の運用成績と誤差がありますのでご留意ください。
ダイナミック為替オーバーレイ戦略について
ポートフォリオ最適化を行った結果、組み入れ資産の多くに外貨建ての資産クラスが含まれることが想定されますが、日本国で生活や事業活動を行う上では、円高のリスクに常に晒されることになります。従って当社では、円高リスクをヘッジするために、全て外貨ヘッジを行います。ただし、金利差によってヘッジコストが嵩むという問題を抱えることになりますので、当社で開発したダイナミック為替オーバーレイプログラムを用いて、当該ヘッジコストを相殺します。様々な通貨クラス間で発生する、金利差、購買力平価、モメンタム性といった特性を活かした機械的なダイナミック為替オーバーレイによって中長期的にヘッジコストを大きく削減することができ、ポートフォリオ全体のパフォーマンスの向上、標準偏差引き下げに大きく寄与します。
外貨ヘッジとダイナミック為替オーバーレイを用いるため、ポートフォリオと同量以上のポジションを取ることになるため、レバレッジが不可欠になりますが、過度なレバレッジサイズにはなり得ません。
規定RFRについて
規定RFRは日本におけるインフレ率の最悪ケースを想定した値になります。一般的には消費者物価指数などが用いられますが、企業物価や実質円価下落率など消費者物価以外でもインフレ率を表現する指標は沢山あります。当社では、規定RFRと名称し、以下の式に従ってインフレ率を推定しています。規定RFR以上に運用パフォーマンスを維持することで保守的に資産の実質的な目減りを防ぐことができます。
(規定RFR定義)
規定RFR(規定リスクフリーレート)は、以下の日本の5指標の内、2番目に高いものとしています。(いずれも単位は%。)
5指標の最大値を採用すると、長期金利を除いて稀に激しいスパイクを示す事があるので、最大値を除外しています。刈り込み平均と同じ考え方ですが、より厳しいベンチマークレートとして扱うために刈り込み平均ではなく2番目の値を採用しています。なお、以下に出てくる年や年末は暦年を指します。
対象指標:
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1. 10年国債金利の年末値(%)
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2. 消費者物価指数年末値の前年比変動率 |
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3. 企業物価指数年末値の前年比変動率 |
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4. GDPデフレータ年末値の前年比変動率 |
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5. 日本実質実効為替レート年末値の前年比変動率の符号変換 |
ただし、規定RFRは公表される経済指標に大きく依拠しており、速報値、確定値などで揺れ動きます。したがって、規定RFRが完全に確定されるのは翌年の3月になり、その間規定RFRは修正されることがあります。
最新の成績データ、天候データについて
公開している成績データ、天候判定は前日までの最新情報に基づいています。毎日最新の月次や年次などの情報、天候別のデータが更新され、最新のデータを出来るだけ反映させています。
ただし、天候の推定については、公表される経済指標に大きく依拠しており、速報値、確定値などで揺れ動きます。天候が概ね完全に確定されるのは9ヶ月後、完全に確定するのは12ヶ月後になりますので、その間は時系列データと経済指標の速報値、先進的な予測モデルを用いて天候を推定しつつ、天候表記に「未確定」の印が付きますのでご留意ください。
なお、過去の天候によってポートフォリオの最適化は行っているものの足下の天候によって組み入れ資産を入れ替えたりしませんので、年次や月次パフォーマンスについては当然変化しません。
シミュレーション実運用時の例外的差異について
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シミュレーション(各ITRL①~N番のヒストリカル&フォワードパフォーマンス)については元本サイズが充分にあるため細やかなリバランスが可能ですが、
実運用時には元本額に制限があるため、リバランスについては四捨五入で1%以上乖離があった場合に行われます。
これにより僅少の組入比率かつ単価が高い資産クラスがあった場合でも、最低投資元本をいたずらに大きくしすぎなくてすむメリットがあります。
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0.1%単位の精微なリバランスを求める場合、5%の組入比率で25USDの取引単位が1単位の資産クラスがある場合、
25USD÷0.1%÷5%=50万USDとなり、およそ7,500万円が最小サイズとなり、バッファーで2倍程度必要と考えると1.5億円を必要とします。
一方で、実運用時に限り、四捨五入で1%以上時にリバランスとすることでサイズを1/10以下に落とすことができます。
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上記において四捨五入後1%以上の乖離があった場合にリバランスすると妥協したとしても尚、元々の当該資産クラスの組入比率が1%以下等と著しく小さい場合、
それに伴って投資元本サイズがいたずらに大きくなってしまい運用が難しくなる場合には例外的に実運用時に限り組入比率を0%する手動調整を行うものとします。
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シミュレーションの結果、最適組入比率が僅少となった一部の資産クラスについて、シミュレーション(各ITRL①~Nのヒストリカル&フォワードパフォーマンス)については、元本サイズが充分にあるため問題は起きませんが、
実運用時において当該資産クラスに最低取引量制限がある場合、リバランス時の少量売買が叶わない資産クラスが生じます。この様な場合には、例外的に実運用時に限り組入比率を0%する手動調整を行うものとします。
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例えば一般的に、FXの最低取引サイズは1,000通貨以上1単位刻みであることから、新規組入時には良いですが、リバランス時に100通貨だけ売りたいとなった場合、
一旦1,000通貨以上売った後に、1,000通貨以上の一部を買い戻す必要が出てくる(例えば、1,100通貨売った後に、1,000通貨買い戻すというようなイメージ)ため、
往復の手数料の問題が起きてコスト負けする問題が起きてしまいます。
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シミュレーションの結果、最適組入比率が僅少となった一部の資産クラスについて、シミュレーション(各ITRL①~Nのヒストリカル&フォワードパフォーマンス)については、元本サイズが充分にあるため影響が大きいですが、
そもそも1%以下等の僅少の組入比率で、パフォーマンスにあまり影響を与えない資産クラスに限り、例外的に実運用時に限り組入比率を0%する手動調整を行うものとします。
その他の活動について
当社では、上記の「Project 344」とは別に、生成AIなどを用いた投資戦略の自動探索を並行かつ大量に行うクオンツプロジェクト、クオンツプロジェクトから生み出された投資戦略を用いた全天候型のポートフォリオの検討、人的裁量ヘッジファンドなどを目下進捗または計画しており、ご関心がある方はお問い合わせください。
ご関心をいただいた方・企業について
当社は金融商品取引業者ではないため、本プロジェクトに関連した助言などは行うことができませんが、当社の研究内容にご関心がある方はお問い合わせよりご連絡いただけましたら幸いです。
公開している全てのデータの信憑性・正確性について当社は責任を負いません。あくまでも研究結果の公表を行っているだけにすぎず、投資の推奨を行っているわけではありませんのでご注意ください